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4話 低級魔法が爆炎魔法に

Author: みみっく
last update Last Updated: 2025-12-25 12:38:53

「はい!」

 ティナは力強く返事をし、新しい杖を両手でしっかりと構えた。魔力を集中させるため、大きく息を吸い込んだ。彼女の周囲の空気がわずかに震え、杖の先端の魔石がじんわりと温かい光を帯び始めた。

「ファイアショット!」

 ティナの短い詠唱が終わると同時に、杖の先端に嵌め込まれた魔石が強い光を放った。その光は一瞬でティナの魔力を吸い上げ、増幅させ、炎の塊として放出した。

 放たれた魔法は、もはや「ショット」と呼べるような可愛らしい火の玉ではなかった。唸りを上げ、全てを焼き尽くすかのような猛烈な熱量を伴った、巨大な火炎流だ。炎の塊は周囲の熱を巻き込み、陽炎を立ち昇らせながら、凄まじい速度で用意された的に向かって突進した。

 先ほどそらが放ったものと同じように、衝撃と轟音を伴って的に激突。木材の的は、抵抗する間もなく、爆音と共に粉々に砕け散り、黒焦げの破片が四方に飛び散った。地面に着弾した火炎は爆発し、土を抉り、砂煙と焦げ臭い匂いを空に巻き上げた。ティナは両手で杖を握りしめたまま、その信じられない光景に目を奪われていた。

「……え!? な、なんで……?」

 ティナは呆然と立ち尽くし、放たれた魔法の痕跡と手の中の杖を交互に見つめた。そして、次に驚きに満ちた瞳でそらを見つめた。彼女の表情は、まるで、自分の知っている世界が覆されたかのようだった。

 そらは、サプライズが成功して満足そうに微笑んで、彼女の純粋な疑問に答えた。

「受付嬢が、魔石で倍増するって言ってたじゃん」

 その言葉を聞いたティナは、今、自分が放った魔法の威力を改めて思い出し、ゴクリと唾を飲み込んだ。彼女は震える声で聞いてきた。その声音には、尋常ではない魔石の正体への恐怖が混じっている。

「……ちなみにですけど、この魔石って……なんですか?」

 ティナは恐る恐る尋ねた。視線は杖に縫い付けられたままだ。

「ん? それ、ドラゴンの魔石だけど?」

 そらは、別に大したことないという雰囲気で、さらっと当たり前のように答えた。その口調には緊張感が微塵もない。

「え!? ドラゴンを討伐したの!?」

 ティナは絶叫に近い声を上げ、持っている杖が急に熱を帯びたかのように慌てて、そらの顔を凝視した。彼女の顔から一瞬で血の気が引いた。ワイバーンを含むドラゴン種がいかにこの世界で危険で規格外の存在か知っているからだ。その瞳は驚愕と恐怖に大きく見開かれ、信じられないという感情でいっぱいだった。

「まあ、そんな感じかな。他の人には内緒だよっ」

 そらが頭を掻きながら、曖昧に答え、人差し指を口元に当てて「しーっ」と秘密を強調する仕草をした。

 それを聞いたティナは深く溜息をつき、不安と諦めが入り混じった表情で眉をひそめて言った。

「毎回、そんな規格外なことばっかりやっていて、大丈夫なんですか? 前にも言いましたけど、ドラゴンって、そもそもこの世界で討伐できる存在じゃないんですけど……」

 ティナは杖を大事そうに抱えながらも、そらの常識外れな行動に心が休まらないのを露わにした。

「あぁー……はい、気を付けます」

 そらはティナの心配を正面から受け止めず、ただ、苦笑いしながら曖昧に答えるのが精一杯だった。太陽の光がそらの表情を照らし、その影が地面に長く伸びていた。

「この杖なんだけど、普段使う勇気はないです。規格外過ぎです!! わたしまで規格外扱いされてしまいますよ……」

 ティナは杖を抱え直し、困ったようにそらを見上げた。その瞳には、高性能すぎる道具を手に入れたことへの喜びと、想いを寄せているそらからプレゼントされた嬉しさと同時に、どう扱えばいいのかという戸惑いが浮かんでいた。

「だったら、威力を落とす練習をすれば?」

 そらはあっさりと提案した。

「何ですか、その普通の人と逆を行く練習は!」

 ティナが額を押さえ、少し呆れたように言った。普通の魔術師が日々、魔力の増強に励むというのに、自分は今、威力を抑える方法を考えなければならないのかという驚きが込められている。彼女は軽く肩を落とし、新しい杖の扱いに、早くも頭を悩ませ始めた。

「せっかく作ったからさ、ティナに使ってほしいなーって思って」

 そらが少し拗ねたように、口元を尖らせて言った。まるで、気に入ったおもちゃを使ってもらえない子供のような口ぶりだった。

 その言葉に、ティナは頬をカーッと熱く赤らめ、居た堪れなくなって、視線を足元の石ころに逸らした。そらの純粋な好意と、この規格外の杖をどう扱えばいいのかという葛藤が、彼女の中で渦巻いていた。

「人目に付かない所だったら、良いですけど……」

 そう答えるのが精一杯だった。

「だったら、竜の谷の付近でも冒険をしてみる? 人はいなさそうだし」

 そらの提案は、あまりにも常識を逸脱していた。その言葉を聞いたティナは、驚愕で目を丸くした。彼女の背筋に、冷たいものが走る。竜の谷は、高ランクの冒険者でさえ近寄らない場所で別名は”死の谷”とも呼ばれていた。上位の魔物に加えて、ドラゴンも現れる場所として恐れられていた。

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